ミッドガルドの片隅で。

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(―うるさい。)
きゅう、と不快感に娘の眉間に力が入った。


ミッドガルドの片隅で。


(うるさいうるさいうるさい)
体を硬くして前傾姿勢になり、足早に人波を縫っていく。
漆黒の修道服。目深にかぶった同じ色のヴェール。
その下の髪は短く切られ、風を受けて肩先をさらう。
少し長い前髪の下の瞳は、深緑でありながらさわやかさを欠いて苛立ちに淀んでいた。
(その安売りは全然安くないしそこの露店は詐欺だしそっちの店は店主が居丈高で気に食わない)
ああもう、イライラする。
自然、すそ捌きが荒くなり、ひらひらと修道服が踊る。神に仕え、他者に祝福を与えることを誓ったはずの聖衣が。
(用もないのにつっ立ってないでさっさと失せなさいよ。邪魔なのよ。なんなら誰の邪魔にもならないような辺境に転送してあげましょうか?リザ下さい?ヒール下さい?こっちは歩く回復剤じゃないってのよ。それくらい座ってりゃ治るでしょ)
脳内の不平不満は吐き出されずに内に降り積もり、娘の―リダの眉間のしわは深くなるばかりだ。道々にある物事の粗ばかりが見えて、知らず、不機嫌が育っていく。
商魂逞しい商人たちと少しでもいいものを少しでも安く手にしようと互いが目を光らせている通り。様々な欲望が渦巻く中を通らなければならないことが不快で苦痛だった。
少し前から自分の後ろを何者かがずっと追って来ているのには気付いていた。情けなく上がる「ぷりさ~ん」などと言う声が自分を呼んでいるらしいことにも。それらをまとめて無視していたのは多分にそれらの不快感のせいである。
「ぷりさんまって~」
へらへらとした力無い声が煩わしさの限界に達して、リダは鋭く背後を睨み付けた。
「あ、やっと気付いてくれた~」
そんなリダに対し額にうかんだ汗を「ふへー」などと拭っていたのはブラックスミスの娘だった。周囲の人間はそのリダの一睨みでちょっとした空間を提供したのだが。
触らぬナニカにナントヤラ。
言葉以上に場を空けた人垣の顔が物語っていていっそうリダを苛つかせる。
ふにゃけた声に比例するようにその娘の顔にはしまりというものがない。そしていったい何用だと睨み据えるリダに臆することなく、カートを引っ掻き回してビンを一本差し出してきた。
「ぷりさんぷりさんミルクはいかが~?」
「は?」
リダは別に怪我をしていたわけではない。むしろ準備万端でソロにでかけようとしていたところだ。
着実に積み上げてきた実績だけは自分を裏切らず、もう少しで聖職者がたどり着けるクラスの頂点が見えるところまで来ていた。Signを手にした日に誓った、ヴァルキリーの前に再び立つその時のため、今日も今日とてあの殺伐としたピラミッド地下でアヌビスを浄化して回るつもりでいたのだから。
―それにしても。
(何でミルク?押し売りにしたってレベルが低い)
プリーストにミルクとはあまりにつまらない押し売りではないか。なまじ今となっては昔よりもいい回復アイテムもある。たとえ打撃型のプリーストであってももっと他のものを選ぶだろう。
何にしてもその差し出されたミルクに対して好印象を抱く理由は一つも見当たらなかった。
(…それともそんなにツカエナソウに見えた訳?私これでも知性、技量型の純支援なんだけ―)
「眉間にしわー」
不躾にリダの額を指差して娘は変わらずゆるい笑みを浮かべていた。脳内で不快指数を吊り上げていたリダは虚をつかれて目を見開いた。
「ぷりさんなんだか大変そーだから19zでどーだ!仕入値だぞー」
ふにゃふにゃと笑う娘には邪気がない。これではどちらが聖職者かわかったものではなかった。
ため息が漏れた。
鞄から小銭を取りだしリダは言った。
「頂くわ」


きれいに並んだ露天の列にせっせと自分のスペースを確保して、娘は店を出していた。手にしたミルクをちびちびと飲みながらリダが様子を伺っているとその店先に並んだものは大して価値のないものばかりだった。強いて特徴を挙げるなら値段がいわゆる良心価格であるところ程度で、通りを歩く冒険者たちはちらりと目をやっては何も見なかったかのように通り過ぎていく。相変わらずの喧騒。相変わらずの雑踏。それでも先ほどより不快指数が低いのはこの手の中のミルクのせいなのだろうか。
ため息をもう一つ。いっこうに売れる気配のない店の前でにこにこしている娘の背後に無作法だと思いながらも直に座り込んでリダはまたミルクを口にした。程よく冷えたミルクは、晴天の日の光にさらされながら飲むにはちょうどいい温度だった。
ぼんやりとミルクを飲みながらリダは思う。こんな時間はいったいいつ振りだろうか。

不意に過去が想起され、あわてて記憶の蓋をねじ込むように閉めた。

三度目のため息。思い出して楽しいものでないことなど、疾うに身にしみていたはずなのに。
「ホットミルクのがよかったかなーあ?」
急に振って沸いた声にはっとして顔を上げると、娘の変わらぬ笑顔があった。相変わらずそこには欠片の邪気もない。まったく、何をやっているんだろうか、という思いでリダは苦笑をこぼさずにいられなかった。
「十分よ」
含めた謝意は届いただろうか?果たして娘の笑顔がふにゃーっと溶けたのでおそらく通じたのだろうと思うことにした。鈍そうでいて、意外とこの娘、気が回るようだった。
ミルクの残量は少ない。もう少しこの娘の傍にいてみたい気もしたが、聞かれて答えられるだけの理由をリダは思いつけなかった。最後の一口を飲み干して立ち上がる。
「空き瓶、どうしたらいい?」
きょとん、とした相手は次いでふんにゃりと笑った。
「よぉく洗って聖水でも入れてー」
まったく。
この娘に会って何度目の感想だろうか。
込められるだけの謝意を小さな笑みに変えて、リダは暇を告げた。
「じゃあ」
「うん、また~」

いつかどこかで、また逢うことがあるだろうか。相変わらず向かう先はあの殺伐としたピラミッドではあるのだが、それでもあの娘とのひと時がリダの目を和ませていた。
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